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やる気ブレーキ-わかったことと心理サポート/a neural brake that limits motivation

  • 1月21日
  • 読了時間: 8分

みなさん、仕事、勉強、家事、やらなくてはいけないことと向き合う時、いつでも「スイッチ」すぐ入りますか?


やらなくてはいけないとわかっているけれど、自分が嫌な気持ちになることがわかっている、または想像できることはどうですか?

たとえば・・・お客様へのお詫びの電話。

いつも厳しい上司の前でするプレゼンの準備。

仕事で疲れた状態で、このまま家事に突入したら心身ともに疲弊するだろうけれど子供達のために料理を作らなくてはいけない時。


京都大学等の研究チームがそんな時に脳の中で起こる「やる気スイッチ」ならぬ「やる気ブレーキ」の存在を明らかにしたという記事を見つけたので、ご紹介します。


嫌な刺激が見込まれる時にはやる気ブレーキがかかる?!


京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)雨森賢一 主任研究者、オ・ジョンミン 同研究員、雨森 智子 同研究員、高田 昌彦 ヒト行動進化研究センター教授(現、同名誉教授)、井上 謙一 同助教(現、名古屋市立大准教授)、木村 慧 東北大学助教らの研究グループは、マカクザルに報酬のみの課題とストレスの高い課題を行わせ、試行を「始めようとするかどうか」で行動開始の意欲を調べ、さらに脳の腹側線条体(VS: Ventral Striatum)と腹側淡蒼球(VP:Ventral Pallidum)を結ぶ神経経路(VS–VP経路)を化学遺伝学と呼ばれる手法で選択的に抑制し、ストレスによってなかなか始めることのできなかった課題が、ためらわずに行えるようになることを見出しました。

これは、VS–VP経路が、ストレスがかかったときに行動開始の意欲を下げる「やる気ブレーキ」として働くことを示しています。この仕組みを理解することで、うつ病などで見られる自発的な意欲の低下の原因解明や、新しい治療法の開発につながる可能性があります。(ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)のニュースリリースより)


詳しくみていきましょう。

研究チームは、下記の二つの実験を行いました。


マカクザルに2種類の課題を与える。

1ー報酬のみの課題: 見返りとして水(ご褒美)がもらえる

2ー不快刺激を伴う課題: 同じ報酬がもらえるが、予告された風が当たるという嫌な刺激(不快刺激)も同時に来ることがわかっている。

猿は自発的に課題を「始めるかどうか」を決められます。


さらに、報酬や動機づけに関わる領域同士をつなぐ、脳の特定回路、腹側線条体(Ventral Striatum:VS 報酬・動機づけ・学習などに関わる重要な領域) → 腹側淡蒼球(Ventral Pallidum:VP 報酬や動機づけに関わる主要な出力核のひとつ)への経路を化学遺伝学(chemogenetics)で一時的に弱めました。


この研究からわかったことは、下記3つです。

①VS-VP経路は『やる気ブレーキ』として働く

この回路が活発だと、特に不快な刺激が予想される場合に「行動を始める意欲」が抑えられることが示されました。報酬だけの課題では特に影響がありませんでしたが、不快刺激付きの課題では始める意欲が低下しました。


②「やる気ブレーキ」回路を抑えると「行動開始」が戻る

VS-VP経路の活動を一時的に弱めると、→ 不快刺激ありの課題でもサルがためらいなく行動開始する割合が増えたという結果が出ました。つまり、価値判断は変わらない一方、始める「ブレーキ」の力だけが緩和された ということです。


③価値の評価と行動開始は別のプロセス

「始めないやる気ブレーキ」と「価値判断」は脳の別の処理によって制御されていることが示されました。


図解:ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)のニュースリリースより
図解:ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)のニュースリリースより

筆頭著者の雨森先生は

「モチベーションのブレーキ(やる気ブレーキ)を弱めすぎると、危険な行動や過度のリスクテイク(リスクを厭わず行う危険行為)につながる可能性があります。このような介入をどのように、いつ用いるべきかを決定するには、慎重な検証と倫理的な議論が必要です。」

と仰っています。(news medical life science より)


雨森先生が、不安の源に関する研究をわかりやすく解説してくださっている動画を見つけました。https://youtu.be/jI8P3_KWk7A

とてもわかりやすいですし、ここまで進んでいるのかと驚きます。超音波を使って脳に働きかけてうつ病を治す治療法の開発まですすんでいるようです。


やる気ブレーキってなぜあるんだろう?


「やる気ブレーキ」の発見は、今後不安が高く一歩を踏み出せないという症状の精神疾患の方々への新しい治療法に活かされていくのかと思います。

一方、この「ブレーキ」が存在するのには「理由」があることも忘れてはいけないと思います。人間に備わっているこの機能には意味があるはずです。


不安を感じる、緊張を感じる、そして行動をしないという選択をすることは、自分にとっての脅威を回避する行動ともとれます。英語ではfight or flight と言われますが、古代、もっと自然と共存していた時代から人間は状況を判断して「闘う」か「逃げる」かを瞬時に判断して生存を確保してきたのですから、脅威を感じる、そして逃げるを選択するという機能は、人間にとってとても大切な機能だと思います。


仕事柄、頑張りすぎの方が燃え尽き症候群になったり、突然動けなくなって急に心身のご病気になって休職になってしまうという姿をたくさん拝見してきました。ニュースでも過重労働、働き方改革が取り上げられ続けています。やる気ブレーキ自体は、大切な機能です。


今後活用されるとしたら、過度にブレーキがかかってしまって動きたいのに動けない方々に対して活用されていくのだと思います。困っていらっしゃる方々はたくさんいて、その神経回路がどこでどこかが解明されたことは非常に大きいことだと思います。ただし、どの程度ブレーキを緩めるのかも、とても難しいポイントではないでしょうか。


やる気スイッチは、一つじゃない


一歩を踏み出せない人とお話する際には、その方が「踏み出したい一歩」を一緒に考え、それができそうなスモールステップに落としていく作業をカウンセラーは行っています。


例えば、不登校のお子さん。学校に行きたい気持ちがあります。転校したくない、フリースクールも嫌だ。この学校がいい。毎晩次の日の時間割を見て学校の準備をします。でも、朝になると急に不安が襲ってきます。みんなの目がこっちを向いたらどうしよう。クラスに入れるかな。そして学校に行かれない自分に苛立って泣いてしまいます。


解決志向では、お話してくださる相手はいつも最善を尽くしているという前提でお話を聞きます。そしてその方の現在の行動には、その人なりの理由があると考えています。上記の論文が明らかにしたように、神経回路にすでに備わっているやる気ブレーキが備わっています。どこで作動するかには個人差があり、そこは根性論ではない、身体の反応と捉えることができます。


では、やる気ブレーキがかかっている人にはどんなことが大切だと思いますか。これはきっと色々な意見があるでしょうし、その状況、人によって様々だと思います。

やる気ブレーキの神経回路が不快刺激によって作動する、という上記の論文からだと、不快刺激の少ない、本人が安全だと感じられる状況場所、人を見つけることが大切ではないでしょうか。また、そこでやりたいこと、そこへの一歩を見つけていく。


ここで大切なのは、本人がやりたいと思っていることをはじめるスイッチは、いろんなところにあるということです。学校に行きたい子のスイッチは、その子が安心できる場所、人、関わり、好きなこと、安心できる時間など、様々なところに存在していて、そのスイッチオンを安心しながらできる経験を積み重ねることで、経験が自信になり、次につながっていくのではないかと思います。学校に限らなくても良いと思います。学校に行くやる気ブレーキが作動していても、他のところでやる気スイッチが入っているところを探すところから始めると良いのではないでしょうか。きっとたくさん見つかるはずです!


やる気ブレーキを緩めてみよう


では、ここで解決志向でやる気ブレーキを緩めてみませんか?

先延ばしにしている仕事、考えると嫌な気持ちになっちゃう仕事を思い浮かべてください。ありますか?そして、次の質問に答えてみてくださいね。一歩が見つかれば幸いです。


・もし今夜、「あの仕事に少しは着手できたな」と思って眠れたとしたら、どんな小さな行動ができていると思いますか?


・「ちゃんとやった」じゃなくて構いません。あなたが「これは着手って呼んでいいな」と思える行動は何でしょう?


・「頑張らなくていい」「ちゃんとやらなくていい」としたら、どんな形ならこの仕事に触れられそうですか?


・3分だけやるとしたら、何をしますか?


・今日やるとしたら、どのタイミングでやりますか?どこでやりますか?


・終わったら「自分に何と言ってあげますか?」



過去に「すごく嫌だったけど、結局なんとか始められた仕事」を思い出してみるのも、良いと思います。はじめられた時間帯、場所、誰かの存在がありましたか、期限前どのくらいでやったか、仕事の区切り方等工夫したことがあったかな。思い出してみてください。


いかがでしょうか。今回解明されたやる気ブレーキは、身体的にも、心理的にも意味ある、大切な機能です。無理は禁物。でもやりたい気持ちがあるならば、安全、安心に歩める一歩を見つけていきましょう。



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