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黄色いシャッポ

Chapeau(仏語:帽子)


子どもの頃、読んだ絵本に「黄色いシャッポ」という話がありました。


小学生の主人公が町でクラスメートを見かけます。友達はお菓子の店に入ると、勝手に取って食べ出しました。少年はビックリ。店員達はニコニコしていてとがめません。幾つかお菓子を取って友達は、お金を払うことなく店を出ました。少年は彼に声をかけました。

「大丈夫なの、お金を払わないで」

「大丈夫だよ」友達は笑っています。

「どうして?」

「この魔法のシャッポのおかげさ。何でもタダでもらえるんだ」

「……」

「君に貸してあげよう」と黄色いシャッポを脱いで彼にかぶせました。

「本当にいいの」嬉しくなって少年は店に入りました。

お菓子を幾つかポケットに詰め込んで店を出ようとしたら、捕まって殴られてべそをかきました。友達の父親は町の有力者で店の建物のオーナーだったのです。友達は笑っていました。


この絵本を読んで、友達をからかうお金持ちの子に怒りを感じました。

それでも、魔法の「黄色いシャッポ」があるといいなと思い空想しました。

子どもですから、お店は近所の駄菓子屋です。魔法がきかないと困るので、いきなりポケットに詰め込まずに、店のおばちゃんに見せるように両手に拡げて持ち、「これいいよね」って聞きます。笑顔で「いいよ」と言ってくれるのを確かめて、店を出ます。いろいろ楽しんでいました。


大学時代、うまくいかずへこんで引きこもっている時期に、ふとこの絵本のことを思い出し、久しぶりに空想しました。一眼レフの一番安いモデルを持っていましたが、カメラ店に行き、10数万円の高級機種と望遠レンズを選びレジに。黄色いシャッポのひさしを握り直し、「どうぞ」と言われて店を後にします。

ドキドキ、興奮、達成感がありました。だけど買い物はそれで終わり。小遣いに不自由なく、近所の食堂も喫茶店も黄色いシャッポは不要でしたから。


その頃、別の学部の学生がテレビを盗んで警察に捕まりました。

テレビくらいでバカなことをするなぁと。私は入学時に買ってもらったテレビがあるので、欲しくありません。生活費は仕送りで、欲しいものはバイトで買えます。

だから、自立していると思っていました。

でも盗む必要なく暮らせていた私は、「黄色いシャッポ」をかぶっていたんですね。お金持ちではないけれど、親の存在自体が「黄色いシャッポ」だったのです。


よく見ると、黄色いシャッポをかぶって偉そうにしている人が多いなぁ。



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