むかしむかし子どものころ、両親に連れられ初めてレストランに行ったときのことです。テーブルには片づけられていない前の客の皿があり、たくわんが二きれ残っていました。好きなのでつまんで食べようとすると、父から厳しく叱られました。私は何が起こったのかわかりません。「人の残したものは食べるな」と言ってるようですが、私は納得いきません。わが家では、人が残したものを他の人が取って食べます。父が残すと、母は私の皿にそれを乗せ、私が残すと母が食べます。それなのに……。私は怒られた悔しさ、悲しさで下唇を噛みながらうつむいていました。父から説明不足で怒られることが多く、だんだん無邪気さが失われ、父の前では怒られないように萎縮するようになりました。
お祝い事や法事などがあると、親戚の女性達もやってきて、台所は大賑わいになります。そういう女性達は私が台所に行くと、できたての料理をひとつかみ食べさせてくれました。調子に乗って何度も台所に行きます。その日は母の苦手なおばさん(兄嫁)が来ていて、母は機嫌が悪く、「男は台所に入ってはいけない」と私を叱りました。何か違和感を覚えました。「何で?今までは入っていたのに」と思いつつも、つまみ食いはいけないということなのかと思いました。
中学に入った頃、父が糖尿病にかかり厳しい食事制限が始まりました。父は早朝とか寝る前にこっそり台所に入って行きました。怖くて後はつけませんでしたが、母も祖母も何も言いません。強く感じた違和感が父に対する不信感になりました。
今から思うと子ども心にも、いろいろ反応していたんだなと思います。子どもなりに人の関係が見えていたようです。厳格だと思った父の子どもっぽい姿に、今ならニヤリとします。実母と暮らしていた母ですが、父に気をつかい、度々祖母に無心に来る次兄にイライラし、我慢することも多かったのかな。それでも母や祖母は、長男の私を可愛がってくれたので楽しい子ども時代を過ごせたと思います。
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