私が中学1年の6月、母が宣言しました。「私仕事を辞めるわ」。激震が走る。大変だ、うるさい母が毎日家にいることになる。父に言っているのか、祖母に言っているのかわからない。そして続けて「これからきよしのことをもっと見るわ」。大変だ、大変だ、揺れが大きくなる。私に関係しているらしい。しかし誰も何も言わない。私も聞こえないふりをして平静を装っていました。
家の中で何があったのか知りません。しかし、ただ事ではない雰囲気です。独立宣言のような高らかな宣言です。本来良いことだろうけど、過干渉な母親の行動は私に影響してきます。私のためだと言うから大変です。中学1年になって英語も加わり、社会も理科も国語も難しくなっています。中間テストの成績が振るわなかったことが原因になっているらしいけど、それだけではない雰囲気。誰も私の成績を問題にしていないのだから。
その後、私を四六時中監視するだろうと思った母は料理学校に通い出しました。父親が糖尿病になったからのようです。1年前から夜勤の多くなった母の代わりに祖母が夕食を作って出していました。祖母と関係がよくなかった父は、段々帰りが遅くなり、どこかで食事して帰りが遅くなっていました。それらが病気につながったのではないかという話に聞こえました。子どもながらに、料理の問題ではない気がしましたが、母と祖母は父の病気を治すためにタッグを組んだのです。おかげで私の監視はなくなりました。私は母の注意をひかないように、勉強するふりをしたし、自分の部屋にこもり、テレビは見なくなりました。
勉強しろと言われても、嫌々逃げ回っていましたが、自分なりに母親の過干渉を避けるための方法が勉強するふりでした。机に向かっていましたが勉強せずに、図書館から借りてきた本をたくさん読みました。母の目を逃れて世界文学全集を片っ端から読みました。
時は流れ、息子がその頃の私と同じ年頃のとき、ゲームに熱中していました。小学2,3年の娘がそれを私に報告してきました。「よし注意する」と、階段をドタドタと足音高く上って行きます。さらに遠くから「おーい、いるかー」と声をかけながら、部屋に入ると、ゲームはしていません。
娘は後で、「バカだねお父さん、静かに近づかないとダメだよ」と注意してくれました。私は「武士の情け」と心の中で呟きます。自分だって勉強するふりして生き延びてきたんだから。息子の気持ちはよくわかる。
あれっ?ひょっとして母も気づかぬふりをしていたのかな。
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